『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督が放つ、映画最新作『ポプラン』。突然家出してしまった男のイチモツを探して奔走するという奇想天外なエンターテイメント・ムービーで、イチモツを探して右往左往する主人公・田上を映画『メランコリック』で注目を集めた俳優・皆川暢二が演じている。一筋縄ではいかない『ポプラン』の魅力を2人にたっぷりと語ってもらった。
「僕らと地続きの話を今回は作りたい」(上田)
「観た方同士で語り合ってもらえたら」(皆川)
上田「まだ自分が20代でフリーターをしながら自主映画を作っていた頃なんですが、誰に頼まれたわけでもなく1週間に1つオリジナル企画を考えよう、みたいなことをしていたんです。その中で、ふと思いついたものです。もう10年も前なので詳細は覚えていないんですけど(笑)、ふと朝起きたら、自分のアレが無くなっていたというアイデアが浮かび、わりとすぐに脚本を書きました。特に映像化のアテもなかったんですけどね。その時にはすでに、ポプランを探すことが自分探しにつながって、ロードムービーになっていく、という流れが出来上がっていました。なので、当時のいろいろな想いが込められて……いる、かな?」
上田「そうですね(笑)。何か突飛な、巨大な嘘から始まる物語を作りたかったんですね。今までの『カメラを止めるな!』とか、『スペシャルアクターズ』などは現実的な設定の中でフィクションとしての小さな嘘をつく感じで作りました。でも今回は、まず巨大な嘘があって、それをリアリティを持って描くという事をしたかった。巨大な嘘から始まるけど、リアリティのある、僕らと地続きの話に着地させたいという気持ちがありました」
皆川「まず監督が直接連絡をくださったとき、文字だけだとやっぱり伝わりにくい部分があるので、直接お話ししましょうと、場を設けてくださったんです。突飛な話ではあるんですけど、監督の話を聞いたときは、そこに“うわっ”みたいな嫌悪感はなかったです。監督が描きたい軸の部分をしっかり聞けたので、ぜひやらせていただきたいとお話ししました」
上田「まずは作品の内容を言わずにメールしたんです。とある映画でオファーをしたいのでお話できますか?ってね。あらすじだけ聞くとおバカコメディみたいな色モノなのかな?と思われてしまう恐れがあったので、あらすじから想像するところとは違う地点に着地するものを作りたいと、しっかりと伝えました」
上田「確かに、それまでに蓋をしてきたものを辿って、それを開いていくような話とも、言えますよね」
皆川「捨てるというより、選択をするときにただ違う選択をしただけで、捨てるという意識してないんですよね」
上田「この話を思いついた10年前、その当時に撮影していたら全然違うものになっていたと思います。当時はフリーターで社会的には何も持っていない男だったので。その後の10年間で、成功や失敗もしました。いろんな人と出会って、いろんな人と疎遠になりました。手に入れてきたこともあるけど、蓋をしてきたこともある。結婚して、子どももできた。自分自身が、誰なのか。自分で自分が分からなくなる瞬間みたいなこともあった。そういうあれこれを重ねて描いた物語ではありますね」
皆川「やっぱり、イチモツが無くなるっていうアイデア自体、上田さんじゃないと出ない。そこに王道というか、人間ドラマの部分が組み合わさったときにどうなるのか、っていう面白さですよね。化学反応みたいな面白さがあると、すごく思いました」
皆川「最初に脚本をもらった時は、失ったパーツを探す物語だと思ったんです。でも実際には見た目もどんどん身軽になっていく。余計なものが削ぎ落されていくという感覚が近かったです。撮影も、できるだけ順撮りにしてくださったんですよね。それも大きかったと思います」
上田「大きく2つの理由があるんです。僕これまで、前作も前々作もワークショップをして、演技レッスンで長い時間を役者と共有したうえで作るというスタイルでやっていたので、撮影前からがっつり肩を組んで一緒に映画作りを楽しんでくれる人にしたかったというのが一つ。もう一つは『カメラを止めるな!』の翌年に『メランコリック』(皆川が主演・プロデュースを手掛けた映画。『カメラを止めるな!』が注目を集めたウディネ・ファーイースト映画祭で新人監督作品賞を受賞)があったんですね。『メランコリック』がインディーズ映画として作られて、ヒットして、その成功の味と、その後に訪れるであろう壁の厚さを知っている人がいいなと思ったんです。それを皆川さんは知っているんじゃないか、わかり合える部分があるんじゃないか、そう思いました」
皆川「主人公の田上は、たぶん上田さんが経験したものが詰め込まれているんじゃないか、って感じがしたんです。もちろん、撮影に入る前に時間を共有して、役の裏設定というか、ヒストリーのすり合わせもしましたし、そういった意味で共有できた部分は多かったように思います」
上田「たくさんありますけど、この作品は皆川さんがかなり出ずっぱりなんですね。だから、皆川さんと旅をしているような感覚になりました。かつての友人とのシーンを撮っているときは、僕も友人のことを思い出しながら撮っていました。田上の実家が出てくるんですけど、あれも僕が昔住んでいた実家の部屋にそっくり。再現してもらったような形になっていて、本棚の漫画も当時僕が好きだったものが詰まっていて、田上が学生時代に描いていた漫画は、僕が中学生の時に実際に描いていた漫画を使っているんですよ。こういうのは監督によりけりですけど、自分の場合は、ある程度は自分と重ねながらというか、自分を救うために撮っているところがあるタイプなので」
上田「お二人とも昔から知っている方で、原さんは『Shall we ダンス?』も大好きで、緊張してお会いしました。田上が両親と再会するシーンのリハーサルをやりましょう、って言ったら『これは本番まで取っておきましょう』とおっしゃったんです。それで、本番で現場に行ったら台本とは違うことをされたんですね。僕は、リハーサルを重ねて本番に行くタイプなんですけど、でも、どこか本番は台本を外れてほしいと思っているんですね。だから、すごく良かった。リハーサルをしないという選択が正解のこともあるんだなと改めて思いました」
皆川「緊張はもちろんありましたけど、原さんも渡辺さんも、こう、包み込んでくださる感じです、対峙した時に。そういう包容力があるので、たぶん本当に実際の自分の父親や母親に接するときの態度になってますね(笑)。家族といるときのリアクションって独特じゃないですか。友達としゃべるのとも違うし。原さんと渡辺さんのおかげで、僕は両親のように接することができたように思います」
皆川「まずは、イチモツということだけで敬遠しないでもらって(笑)、観ていただきたいです。恐らく『ポプラン』の中の出来事は、みんなが何かしらの形で体験したり、経験したりしていることだと思うので、何か観た人の中でリンクする部分があれば嬉しいです。あと単純に、突飛な設定の掛け合わせという部分を楽しんでいただけたらと思います」
上田「ある朝イチモツが家出した、6日以内に捕まえなければ元に戻らない……なんじゃその話は!とお思いでしょうが(笑)、そのあらすじから想像するところとは離れた手つきで仕上げた、上質な映画を目指して作りました。しかも、僕が今まで作ってきた映画の中で、一番感想が十人十色というか、刺さるところが全然違う。ある人はコメディっていうし、ある人はミステリーだ、ホラーだ、とジャンルもバラバラ。それがすごい面白いと思うので、観た方はぜひ、観た方同士で語り合ってもらえたら嬉しいですね」
上田「地元ですね。実家が滋賀県なんですが、コロナ禍もあって2~3年は帰っていないんですよ。その間、東京で慌ただしい生活をしているので、ちょっとポプランもひと休みしたいのかな、と(笑)。地元の自分の部屋に帰って、窓のサッシのところにいるんじゃないかな」
皆川「地元が横浜なんですけど、僕も地元に帰って、たぶん自分が生まれた時からのルーツがある場所をぼんやりと歩きながら――ちょっと休憩しろよ、ってことだと思うんですよね。ゆったりとした時間を過ごしながら、ポプランを探すんじゃないかと思います」
撮影:島村緑/取材・文:宮崎新之
スタイリスト(皆川):沖田慧/ヘアメイク(皆川):Chieko Katayama(HMC)