映画『あちらにいる鬼』スペシャルインタビュー 寺島しのぶ

映画『あちらにいる鬼』スペシャルインタビュー 寺島しのぶ

2022.11.7
寺島しのぶ

直木賞作家・井上荒野が、父である作家・井上光晴と母、そして瀬戸内寂聴をモデルに3人の不思議な関係を描いた同名小説を映画化。これまで『ヴァイブレータ』や『やわらかい生活』などを手掛けてきた廣木隆一と荒井晴彦の監督&脚本コンビによる男と女の情愛、女同士の連帯感の物語が展開される。寺島しのぶは寂聴をモデルにした主人公・みはる(後に寂光)役で出演。光晴がモデルの篤郎(豊川悦司)、妻の笙子(広末涼子)との特別な関係や、印象に残っているシーンなどを語ってもらった。

「演じていくうちに、みはると篤郎は似ていることに気付きました」

――瀬戸内寂聴さんをモデルにしたキャラクター(みはる/寂光)を演じることに対してはどんな思いが?

今回の映画は寂聴さんが得度する前までの話です。髪を剃ったあとの寂聴さんはよく知られていると思うんですけど、それまでの彼女は何をしていたのか。そこが描かれているのでプレッシャーも迷いもなかったです。もともと井上荒野さんの本のファンだったので、この原作を映画化するのであれば、そして監督が廣木(隆一)さんだったらきっとすてきな作品になるんじゃないかなと思いました。

――寂聴さんにはどんな印象を抱いていましたか?

すべて中途半端ではない、何事にも一生懸命で生き切っている方という印象です。私の中にも生きている限りは一生懸命やりたいという思いがあります。

――みはるを演じる上で、どんな役作りをしましたか?

寂聴さんをモデルにされているということで、出家前までの寂聴さんの本はすべて読みました。いろいろ文献が残っているので、そういうものを体の中に入れる作業と、肉体的には絡みのシーンがあるのでスクリーンに耐えきれるような体作りをしました。

寺島しのぶ

――実際にみはるを演じてどんなことを感じましたか?

脚本を読んだ時に、きっと初めは笙子(広末涼子)さんという奥さんがいるのにみはると関係を持つ篤郎(豊川悦司)さんが結構悪い感じに映るんだろうなって思いました。でも、みはるを演じていくうちに、2人は似ているような気がしたんです。篤郎も好き勝手やっているけど、みはるもさんざんいろんなことをやっているなと。それは面白い発見でした。

――みはるを演じる中で、篤郎という男性はどんなふうに映っていましたか?

とにかく魅力的な人なんでしょうね。初めは師弟関係みたいな感じで始まっていきますけど、やっぱり彼がもがいてる何かの闇にいろいろ気付いたんでしょうね。篤郎さんは「こんな家庭の中にいていいのか」とか、ちょいちょい弱音を吐いたりしますから。しかも、嘘ばかりつくし(笑)。そんな篤郎さんが作る虚偽的な世界に、みはるはあえて飛び込んでいる感じがしました。篤郎さんの話を聞き手として楽しんじゃっているんでしょうね。それが好きだったんだと思います。

――篤郎は良くも悪くも真っすぐで情熱的なところがありますよね。

そもそもみはるさん自身が情熱的ですから。そこに、あの情熱で来られたらブワッと燃えちゃいますよね。篤郎さんは裏がないというか、あまり手練手管を使わない人。小賢しいことをしないし、分かりやすい嘘をつく。そういうところがほかの男性とは違う篤郎さんの魅力だったんでしょうね。

寺島しのぶ

――みはると篤郎、そして篤郎の妻・笙子の関係についてはどんなふうに感じていましたか?

笙子さんという全部を分かっている人がいるんです。だから、ある意味潔い人たちの集まりなのかもしれない。それに加えて物書きという一面もある。きっとこの関係も肥やしにできるんじゃないかみたいな欲もあるのかなと思います。語弊があるかもしれないけど、すごく頭の良い人たちだったのかもしれませんね。

――後半のみはるが笙子の手を握るシーンはとても印象的でした。

何か手をつなぎたくなっちゃったんです。テストの時に突然やったら広末さんが泣いちゃって。その時の戸惑った顔がとてもすてきだったんです。先に廣木さんに相談して本番の時だけやればよかったなっていう後悔はありましたけど、笙子さんに何か伝えたいという思いがあふれたシーンでした。

――みはると篤郎のシーンも、何度も共演されている豊川悦司さんが相手だからこそ生まれる空気感があるのかなと感じました。

豊川さんとは『やわらかい生活』をはじめ、いろんな作品でご一緒していますけど何をやっても受け止めてくれる人なんです。今まで一度たりとも打ち合わせをしたことがない。だからあえて何も考えずに臨むんですけど、不思議なことにおのずといいシーンになっていく。毎回やり切った感じはしつつも、またご一緒したくなる。豊川さんは不思議な縁(えにし)の人です。

寺島しのぶ

――作品のタイトルにある「鬼」という言葉はどんなふうに受け止めていましたか?

いろんな「鬼」の解釈があると思うんですけど、恐ろしい鬼というよりも子どもの鬼ごっこみたいな感じの鬼なのだと思います。(井上)荒野さんと対談した時に「3人が鬼ごっこしているような感じ」と仰っていたんです。私は、ご両親と愛人の関係をものすごく傍観者として見ていて、それを小説として書ける荒野さんが一番鬼だと思いますって言ったんです。きっと、みはる、篤郎さん、笙子さんの3人は鬼ごっこのルールを守った人間。ルールを知らない人たちはその鬼ごっこには入れないんです。篤郎さんの周りにはそういう人たちが多かったですよね。

――寺島さんご自身の中にも「鬼」は潜んでいますか?

私は中高とスポーツをやっていたので基本的に体育会系なんです。しかも昭和の。水を飲むな、つばを飲めっていう世代ですから。我慢強いところはあるかもしれませんけど、たぶん子どもには“鬼婆”に見えているじゃないかなと思います。

――お子さんには厳しいですか?

ちょっと甘ちゃんなことを言っていたら体育会系の血が騒いじゃうというか、許せなくなっちゃう。つい、「お母さんの時代はね」って言いそうになるから、いかんいかん今の時代では通用しないと自分に言い聞かせながら日々子育てをしています。

寺島しのぶ

――映画、ドラマ、舞台と、幅広いジャンルで活躍されていますが、年齢を重ねてきて役との向き合い方や芝居への思いに変化はありますか?

芝居のやり方はそんなに変わっていないと思うんですけど、今まで以上にいい作品を残したいという思いが強くなってきたような気がします。これまでとは全然違うことに挑戦するのか。それとも、以前ご一緒した監督や共演者とまた別の物を作っていくのか。いろいろな道がある中で、ちゃんと残っていくような映画に参加したいなとは思っています。

――そんな中、現在放送中のドラマ『ザ・トラベルナース』(テレビ朝日系)に、看護部長の愛川塔子役で出演しています。どんな役どころですか?

「トラベルナース」という存在を知らなかったんですけど、いろいろな病院を渡り歩いていてお医者さんと同じようなレベルの医療技術を持っているフリーランスの看護師さんの物語です。私が演じる塔子は岡田将生さんと中井貴一さんが演じるトラベルナースがやって来た病院の看護部長。病院経営のことで上からプレッシャーをかけられ、患者さんにもいろんなことを言われて「ごめんなさい」「申し訳ございません」って謝ってばかりいる感じです。レギュラー陣はもちろんですけど、毎回登場するゲストがホントに豪華。チームワークも最高で、ものすごく楽しい現場です。その雰囲気が見てくださる方にも伝わればと思います。

『あちらにいる鬼』
2022年11月11日(金)より全国ロードショー
あちらにいる鬼

©2022「あちらにいる鬼」製作委員会

あらすじ
1966年・春、作家のみはる(寺島しのぶ)は講演旅行をきっかけに気鋭の小説家・篤郎(豊川悦司)と出会う。それぞれに妻子やパートナーがありながらも2人は男女の仲に。自宅では幼い娘をかわいがり、妻・笙子(広末涼子)の手料理を絶賛しながらも足繁くみはるの元へ向かう篤郎。みはるもそんな自由奔放で嘘つきな篤郎にのめり込んでいく。そして、笙子はすべてを承知しながらも決して心を乱すことがない。何とも言えない不思議な関係が生まれていく中、突然みはるは出家することを篤郎に告げるが…。
出演
寺島しのぶ 豊川悦司 / 広末涼子
高良健吾 村上淳 蓮佛美沙子 佐野岳 宇野祥平 丘みつ子
夏子 麻美 高橋侃 片山友希 長内映里香 輝有子 古谷佳也 山田キヌヲ
監督
廣木隆一
脚本
荒井晴彦
原作
井上荒野「あちらにいる鬼」(朝日文庫)
音楽
鈴木正人
配給
ハピネットファントム・スタジオ
©2022「あちらにいる鬼」製作委員会
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撮影:伊東隆輔/取材・文:小池貴之
ヘアメイク:片桐直樹(EFFECTOR)/スタイリスト:中井綾子(crêpe)

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