窪塚洋介が、18年ぶりに長編邦画で単独主演を務めた予測不能の犯罪活劇。最低の人生を生きる男たちが思いもよらぬ偶然の連鎖に導かれ、たった一夜での人生逆転を賭け、巨額の黒いカネが絡む“幻の絵画”強奪計画に挑む様を描く。本作は、2017年に自主制作した「唾と蜜」でニース国際映画祭をはじめ国内外で映画賞を受賞した牧賢治の商業映画デビュー作となる。インタビューでは、脚本も担当した牧監督に制作秘話や主人公のシンジを演じた窪塚の魅力などを語ってもらった。また、タイトルにちなんで撮影中に起きた“シンクロニシティ”にまつわるエピソードも。牧監督自身驚いたという奇跡とは?
「窪塚さんは目で語る俳優なのでシンジの横顔だけで感情が伝わってくる」
プロット自体は5年ぐらい前からあって、起承転結もできていました。ただ、その間に生まれるさまざまなストーリーというのは脚本を書きながらライブ感覚で生まれたという形です。
映画を作る時は最初にタイトルが出てくるというか、いつも勝手に降りて来るんです。絵を描かれる方も先にタイトルを決めて描き始めるか、描き上がってからタイトルを決めるか、2通りいらっしゃるらしいんですけど、僕はタイトルからしかストーリーが生まれないタイプ。今回は『Sin Clock』(罪なる時計)というタイトルがビタッと決まってプロットとキャラクターが出来上がっていたので、あとはその登場人物たちが勝手に動き始めるというか、書いているうちにどんどん動いていくんです。だから、起承転結以外のストーリー部分では自由に遊ばせちゃう。そうすると登場人物たちが勝手にしゃべり始めて「あ、次の展開でこの人が出てくるんだ」とか「あの人とあの人は、ここでこうやってつながるんや」って。自分で書いているんですけど何か不思議な感じというか、ホントにライブ感覚なんです。
その瞬間はとても興奮しますね。だから、あまり急いで書かない。ある程度書いたら寝かせるんです。そうすると、その間に登場人物たちが動いているんでしょうね。また書き始めると自然な形で物語がつながっていく。あたかも本当にキャラクターたちがそこにいるような感覚。勝手にいらんことをし始めるんです(笑)。
企画としての骨子が出来上がっていたということもあって、脚本を書く段階で佇まいを想像しながら書いていました。ほかのキャラクターもそうなんですけど、最初から明確な映像やビジョンがあって、その人の雰囲気や容姿、背景のシチュエーションなども脚本に落とし込んでいるところがあります。
100点満点どころか、120点以上の方たちが集結しました。この人にお願いしたいという人に出ていただけてうれしかったです。撮影をしていて、自分の脳内の映像が目の前に浮かび上がった瞬間は震えるぐらい興奮しました。自分で考えたことなんですけど「これ、どこかで見たことがある」って(笑)。あのキャラクターたちは本当にいたんだって感動しました。
1カット、1カット感動しながら撮っていました。カメラマンがカメラを構えてモニターを覗いた瞬間にシンジがいるって思うんですね。やっぱり、窪塚さんはすごいなと。毎日現場に向かうのが楽しかったですし、今日もいいシーンが撮れたなという達成感をスタッフ、キャスト全員で共有できました。
シンジ、ダイゴ、キョウに関しては窪塚さん、坂口さん、葵さんの個性が際立っていました。各々が持っている要素の引き出しを開けてくれたような気がします。坂口さんは自分の誕生花であるひまわりが好きなところなど、すごくリンクするところがあると仰っていましたし、葵さんは明るくて気さくな方なんですけど、とてもストイックな面もあって。そういった部分をキョウというキャラクターに反映させてくださいました。ぜひ、窪塚さんが演じるシンジとダイゴ、キョウの関係性に注目してほしいですね。
今回の作品では随所に出ていると思います。タランティーノ好きな方が見たら「あ、これね」みたいなところがめっちゃあります。特に、黒服の男たちが円卓を囲むシーンはタランティーノ監督の影響をすごく受けていて。日本の任侠ものになりすぎないよう、もう少しノワールっぽく黒いスーツを着た男たちが悪巧みをしている様をカッコよく撮りたいなという思いが強かったです。
寄りを結構多用していると思います。これもタランティーノ監督の影響でもあるんですけど、あの画角のカッコよさが好きなんです。今回はシンジの横顔を多く撮りました。窪塚さんは目で語る俳優さんだと思っていて。セリフがないところでもシンジの横顔を見ているだけで感情が伝わってくる。きっと、シンジが何を考えているのか、どれだけ悩んでいるのか感じ取っていただけると思います。
今回、藤田晋さんがエグゼクティブプロデューサーとして参加してくださり、窪塚さんと出会うことができて、僕が今回の映画を撮れたこと自体が奇跡だと思っています。もちろん、撮影中もいろいろな“シンクロニシティ”が起きていました。車のナンバープレート1つ取っても、以前窪塚さんが乗られていた車のナンバーと酷似していたり、シンジとユカ(橋本マナミ)が乗っていたタクシーのナンバーには窪塚さんと橋本さんの誕生日の数字が入っていたり。決して狙って付けたわけではなくて、たまたま適当に付けたらそうなったんです。極めつけは坂口さんのエピソード。坂口さんは物語の舞台である神戸の出身で一人っ子。いろいろな事情から収入が減ったお父さんがタクシーの運転手をしながら家計を支えていたというところがシンジとリンクしているんです。しかも、お父さんの名前が“シンジ”。その話を坂口さんから聞いた時は鳥肌が立ちました。自分で書いた脚本だし、キャラクターの名前も自分で付けたはずなのにこんな偶然があるのかと。現場では毎日そんなようなことがいっぱい起きていました。窪塚さんも「映画の神様が今見に来ているから、絶対いい映画になるよ」って言ってくださって。みんながきっといい映画になると思いながら突き進んで出来上がった作品なので、1人でも多くの方に楽しんでいただけたらうれしいです。
撮影:伊東隆輔 取材・文:小池貴之